こんにちは。建築歴20年以上の現場代理人、芯(シン)です。
今日は、あまり気持ちのいい話ではないことを書きます。
注文住宅の工期は、遅れることがあります。
もちろん、予定どおりに終わる現場もたくさんあります。ただ、20年以上現場にいる立場から正直に申し上げると、最初の予定のまま一日もずれずに進む工事のほうが珍しいというのが実感です。
そして問題は、遅れること自体ではありません。
引っ越しや賃貸の解約を、引き渡し日ぴったりで組んでしまうことです。ここで損をする方を、何度も見てきました。
この記事では、次のことをお伝えします。
- なぜ工期は遅れるのか(現場の実情)
- 遅れたとき、施主が実際に困ること
- 崩れる前提でスケジュールを組む方法
なぜ工期は遅れるのか
現場の実感として、大きな理由は2つです。どちらも「誰かがサボっている」という話ではありません。
■ 理由① 天候
これが一つ目です。
基礎工事や、屋根がかかるまでの段階では、雨が続くと作業ができません。無理に進めれば、後で必ず問題が出ます。
こればかりは、誰にも動かせません。 業者を責めても、天気は変わらないんです。
■ 理由② 変更
そして二つ目が、打ち合わせでの変更です。
工事が始まってからでも、変更は出ます。コンセントの位置、照明の位置、収納の高さ。実物を見て初めて気づくことがあるからです。
誤解のないように書きますが、変更そのものは悪いことではありません。 むしろ、気づいたなら言っていただいたほうがいい。住むのはご家族です。
ただ、変更が入れば、その分だけ工程は動きます。 ここは事実としてお伝えしておきます。
■ そして、遅れは後ろに膨らみます
もう一つ知っておいていただきたいのが、1日の遅れが1日では済まないということです。
家は、何十人もの職人さんが入れ替わりで作ります。ひとつの工程が遅れると、次の職人さんの日程が押さえられなくなる。その職人さんには他の現場もありますから、「じゃあ明日」とはいかないことがあります。
このほか、住宅設備や建材の納期が読みにくい時期もあります。
だから、少しの遅れでも幅を持って考えておく必要があるんです。
遅れて一番困るのは、施主の方です
現場の人間は、遅れれば残業して取り返します。それが仕事です。
でも、施主の方は取り返せません。
実際に困るのは、こういうことです。
- 賃貸の解約日を、引き渡し日に合わせてしまった → 引き渡しが延びて、住むところがなくなる
- 引っ越し業者を予約してしまった → キャンセル料が発生する。繁忙期は取り直しも難しい
- お子さんの入学や進級に合わせていた → 住所が間に合わない
- 二重家賃が発生する → 1か月延びれば、家賃1か月分がそのまま出ていく
金額でいえば、数万円から十数万円が一気に動きます。
そして一番つらいのは、これが誰のせいでもないことです。天候で遅れたなら、業者を責めても何も戻りません。
だからこそ、最初から備えておくしかないんです。
現場では「崩れる前提」で組んでいます
ここで、私自身のやり方を書かせてください。
私は現場代理人として、1日にいくつもの現場を回ります。前日の夜に、翌日の回る順番を決めます。
そして20年以上やってきて、はっきり分かったことがあります。
予定は、必ず増えます。
「あれが足りない」「これが収まらない」。こういうことが毎日どこかで起きて、急いで行かなければいけない現場が生まれる。
増えなかった日が、一日もありません。
なので私は、最初から増える前提で組みます。
具体的には、回る順番の最後に「最悪、明日行かなくてもなんとかなる現場」を置く。それだけです。
途中で急な用事が入っても、そこを翌日に回せば済む。最後の1か所がクッションになるわけです。
逆に、朝から晩までびっしり詰めた予定を組むと、1か所ずれただけでその日が全部崩れます。
詰めた予定ほど、もろいんです。
そしてこれは、家づくりのスケジュールでもまったく同じです。
施主の方が、今日からできる3つの備え
■ ① 引き渡し日から逆算しない。余裕を持たせる
引っ越しや解約は、引き渡し予定日より後ろに余裕を取って組んでください。
どれくらい見ておくか。現場にいる私の実感では、住宅工事なら1週間程度の余裕がほしいところです。
もちろん工事の規模や時期によって変わりますので、契約前に「もし遅れるとしたら、どれくらいの幅を見ておけばいいですか」と必ず聞いてください。
この質問、実はもうひとつ意味があります。きちんと答えられる業者かどうかが分かるんです。「絶対に遅れません」と言い切る会社より、「この時期は天候で動くことがあるので、1週間ほど見ておいてください」と説明できる会社のほうが、はるかに信頼できます。
■ ② 賃貸の解約は、引き渡しの目処が立ってから
これが一番大事です。
解約通知を出すと、後戻りできません。 多くの賃貸は1〜2か月前の通知が必要なので、つい早めに動きたくなります。
でも、工事の終盤まで待ってから出すほうが安全です。二重家賃が1か月分出たとしても、住むところがなくなるよりはるかに軽い損害です。
■ ③ 変更は、できるだけ早い段階で伝える
工事の後半に出る変更は、遅れに直結します。
現場では、壁を閉じる前なら数十分で済むことが、閉じた後だと壁を壊すところから始まります。
だから、迷っていることがあれば早めに相談してください。 「まだ決まっていないので後で言おう」が、一番遅れを生みます。
遅れそうなとき、どう伝えてくるかを見てください
最後にもうひとつ。
工期が遅れそうなとき、その業者がいつ、どう伝えてくるか。 ここにその会社の姿勢が出ます。
■ 信頼できる
- 遅れる可能性がある段階で、早めに知らせてくれる
- 理由と、どれくらい延びそうかを具体的に言う
- 引っ越しや解約への影響まで気にかけてくれる
■ 心配なサイン
- ぎりぎりまで「大丈夫です」と言い続ける
- 遅れが確定してから初めて連絡が来る
- 理由の説明がない
遅れることより、遅れを隠されることのほうが、施主にとってはるかに損害が大きいんです。早く分かれば手が打てますが、直前に言われたら何もできません。
最後に、現場の本音を書きます
ここまで、施主の方が損をしないための話を書いてきました。
最後に一つだけ、現場の側の本音も書かせてください。少し立場の違う話になります。
引き渡し日は、あくまで「予定」であってほしい。
これが、現場の正直な気持ちです。
誤解しないでいただきたいのですが、期日を守らなくていい、という話では絶対にありません。 私たちは遅れないように段取りを組みますし、遅れそうなら残業してでも取り返します。それが仕事です。
ただ——日付だけに追われる工事になると、削られるのは仕上げの時間なんです。
もう一日あれば、もっときれいに納まる。
もう半日あれば、あの部分をやり直せる。
そういう「あと少し」が、家の出来を決めます。
そして、それを削るかどうかを決めているのは、実は工程表なんですよね。
だから、施主の方が1週間の余裕を持ってくださっていると、現場はその時間を「いいものを作ること」に使えます。
逆に、引っ越しの日が動かせないと分かっていれば、現場は何としても間に合わせます。間に合わせますが、そのしわ寄せがどこかに行く。それが現実です。
余裕を持つことは、ご自身を守るためだけではありません。
結果的に、いい家につながります。
これは、現場にいる人間からのお願いでもあります。
まとめ
家づくりのスケジュールは、崩れる前提で組んでください。
- 遅れる理由で多いのは、天候と変更の2つ。どちらも誰かのせいではない
- 1日の遅れは1日では済まない。 次の職人さんの日程がずれるため
- 損をするのは遅れたときではなく、予定をぴったりで組んでいたとき
- 住宅工事なら1週間程度の余裕を見ておく(現場の実感)
- 賃貸の解約、引っ越し、入学。動かせないものを引き渡し日に合わせない
- 賃貸の解約通知は、工事終盤まで待つ
- 変更は早い段階で伝える。 後半の変更が遅れを生む
- 遅れそうなときの伝え方に、その業者の姿勢が出る
- そして——余裕は、いい家につながります
現場では、遅れを取り返すために残業します。でもそれは、遅れが起きてからの話です。
遅れても困らない組み方にしておくこと。 これは施主の方にしかできない備えです。
そして繰り返しになりますが、その余裕は家の出来にも効きます。
一生に一度の家づくりです。最後の引っ越しのところで悔しい思いをしないよう、そして現場が「あと少し」に時間を使えるよう、余裕を持って進めてください。
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